このパン、職人さんが作ったんですか??じゃあいらないです。

その他

Twitterとかを見ているとパン職人のブログっていうのが山ほどあるんですね。知らなかったです。私も色々考えまして、パン作りの基礎的な事はその方達に任せようと思いました笑 基礎知識的な事は他のブログの方が詳しく書いておりますのでそちらをどうぞ!的な感じですね。私は切れ味と深みを大事にしていきます!

さて!びっくりするようなタイトルですが現実になったら怖いですよね・・・

今回の記事はちょっと箸休め的な感じで、昨年アメリカでパンの国際見本市があり、お邪魔してきましたのでそちらのレビューと所感をちょっとだけですが書いていきます。最終的にタイトルにつながりますが、あくまでも私個人の意見なので悪しからず!!

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パンの世界見本市IBIE

ラスベガスで三年に一度行われるパン・菓子のとても大きな見本市がIBIEです。見本市はその他にも三年に一度ドイツで開かれるibaなどが有名です。

今回は幸運なことに初IBIEに潜入することができたのでその時のことを書いていきます。

と言いますか初USAで私かなり舞い上がっておりました笑 アメリカではニューヨーク、ワシントン、そしてラスベガスと移動したのですがニューヨークではいきなりカツアゲに遭うなど洗礼を浴びました笑

余談はさておき、流石に世界見本市とあって会場はかなり広いです。全部見るとなると三日はかかると思います。この見本市では主に大型の最新機械の紹介がメインです。もちろん材料や店舗に向けた機械もあるのですが、それはごく一部。これからのトレンドや最新の技術がつまりに詰まっています!!行けるチャンスが三年に一度と限られていますが行くとめちゃくちゃ圧倒されます。日本でも大きな見本市だとモバックショウというのがあるのでそちらもチャンスがあったら行く価値ありです!

技術の進歩はめちゃくちゃ早い!!

ちょっと見づらくて本当に申し訳ないです。この写真が何する機械かわかりますか?

そうです、バゲットの分割・成形マシーンです。これは本当にほんの一例なんですが、これを見た時驚きました。吸水が70%以上ある生地を機械が成形するんですよ!!吸水、つまり入れるお水の量が70%とと言ったらかなり柔らかい扱いづらい生地になります。ベトベトになって人の手でも下手な人がやると大惨事になってしまいます。今まであった機械でもある一定の硬さがあれば対応する事は出来ていました。しかしこういったマシーンが世に出回るとどうなるでしょうか?

容易に想像つくのがコンビニやスーパーなどでもハード系の本格的なパンが買えるようになる事です。もちろん日本の場合気候や湿度の問題はありますが、それでも個人のパン屋さんの専売特許のようなハード系は巷でどこでも買えるようになります。

少し違う話になってしまうかもしれませんが

個人店で人気のあるパン屋さんって最近は焼き立てを前面に出しているところが少ないような気がします。少し前なら店の前に黒板とか置いて一日数回の焼き立て情報が書かれていましたが今はどうでしょうか?もちろん消費者は焼き立てが買えると喜びますし、目安になって良いとは思いますが、それ以上に生地のこだわりを主張するパン屋さんが一気に増えていますよね。これは完全な時代の移り変わりだと思っています。コンビニが一日三回の焼き立てを配送する時代、パンがフレッシュであるという事はもはや最低限のレベルという風に認識されているのかもしれません。少し前はお惣菜パン、菓子パンの焼き立て回数を増やすことによって店の魅力を出していましたが今はどちらかというと『こだわり』を売りにする店が増えてきているのです。そのこだわりは生地であったり、材料であったり、製法であったりしますが、新しい技術の躍進に伴ってこだわりがこだわりでなくなる日も近づいているような気がするのです。

オーバーナイト法の魅力を前の記事で書きましたがこれも当然、完全機械化されるでしょう。ちなみにですがドイツのパンで有名なプレッツェルってありますよね?あの成形を機械で出来る物が、僕がドイツにいた時、つまり14年前にはすでにありました。

しかも一部ではなく完全なるオートメーション化ですからね・・・プレッツェルの成形は難しくて最初何度も失敗した記憶があります。以前の職場でもこれに近しい成形がありましたが、私と同じスピード、綺麗さで出来てた人は多分5人もいなかったです。200人近くいてですからね。それを機械が私よりも早くはないけど正確にこなすんですから、機械の進歩には驚かされるばかりです。

情報弱者は飲み込まれる

以前読んだ私の好きな漫画にこのようなセリフがありました

「知らないという事は罪」

なるほどな、と感心しました。パン屋さんに限らず店を経営していると幾つもの問題が当然発生します。パン屋さんで言えば、技術を含める人材育成だったり、店舗の衛生、他の場所にパンを卸していればその配送問題など実に様々です。この時情報を知っている経営者と知らない経営者では雲泥の差がついてしまいます。何も知らないと、職人のレベルが下がっているとか、もっと手を早く動かせとか、しっかり隅々まで掃除しろとか・・・もちろん当たり前のことではあるし、やらなくてはいけない事なんですけど、実はもう機械化すれば済んでしまう問題がほとんどなんです。どうやって職人のレベルを上げるの??という声が聞こえてきそうですが、職人さんいらないんですよ。育てなくて良いんです。だって人材育成ってとてもとても時間とお金がかかりますから・・・なんて話も出てくるかもしれません。これまでの話は少し規模が大きくて実行するにはお金がかなり必要になるのでこの記事を読んでくださる皆様にはあまりピンとこないと思います。

少し身近な話にしましょう。情報という話の流れでですが。

家でパンを作る時(お店でも同じですが)材料の計量から始まってミキシング、フロアタイム(一次発酵)、分割、ベンチタイム(二次発酵)、成形、ホイロ(最終発酵)、焼成という流れだと思いますが実は何年も前からフロアタイムをすっ飛ばせる改良材があるのをご存知ですか?この改良材使うとフランスパンの仕込みから焼成までなんと1時間半でいけます。味も全く通常のストレート方で作るのと遜色ないです。職人さんやパンを作る方の中で改良材というものに抵抗がある人がいるという事はもちろんわかっています。が、これはよく考えると本当に凄い事なんですよ。今まで4時間、5時間かかっていた物が1時間半で終わるというパフォーマンス。これも情報を知っているか知らないかの問題ですよね。単純に効率化だけを求めるならかなり上がるはずですから・・・

これからの職人に求められる事

とはいえです、情報を知っていたとしてもそれを使いこなすだけの技術がないと発揮できません。これからの時代で職人に必要とされるのは『想像力』『管理能力』この二つが最も重要だと思います。機械化が加速しても人の手でやらないといけない事は商品開発、そして機械、人間をコントロールして動かす管理能力です。機械が全てやってくれると言ってもトラブルが生じた時や、スタートアップ時は必ず人の手が必要になります。知識がなければ設定もできないですからね。だからまずは知識そしてそれを活かす技術がとても重要です。また想像力に関しては例えば色々なもので自家製酵母を作ってみるとか、機械が進歩しても追いつけない領域の生地配合を組むとかそう言った事です。どこまで行っても機械は機械、自発的には考えないですからね。という考えもすぐに改めなくてはいけなくなるかも知れませんね。AI怖い・・・

20XX年とある場所での会話

人口増加で50年前と比べると20億人もの人が増えた。食糧難になるなんて情報も出ていたけど、どうやらそれは回避できたようだ。それもこれも国が行ってくれたパンに関する新しい法案を作ってくれたからだろう。10年前から東と西に大きな製造拠点を作りそこから全国民に毎日パンが支給されるという画期的な仕組みを作ってくれたからだ。支給と聞くと最低限のあまり美味しくないものを想像していたが、届くものはどれも材料の特徴を活かしていて、香り、食感、味、全て楽しめる。1日の楽しみになっているくらいだ。俺は今年で高校を卒業し、そのパンの道に進もうと考えている。初めてパンの支給があったその日、それまで毎日のように食べていたインスタントラーメンとは違う素朴で力強い味わいに心を打たれたのだ。人は本当に美味しいものに出会った時言葉を失うというがそれは本当だった。鼻腔に芳醇なパンの香りが突き抜け、噛んだ時の歯触りはいつまでも脳内に記憶されている。とにかくこれだと思った。俺のような体験をいろんな人にもしてもらいたいと思った。

あれから数年経ち俺はとあるパン屋でパンの修行をしていた。あの日食べた思い出を忘れないように毎日仕事終わりには勤怠を切ってから自分の試作に励んだ。そしてその功績が認められてか俺はその店のシェフになることができた。数店舗あるうちの一店舗、売り上げはそんなに良くはないが、素直に嬉しかったし、これまでの努力が報われたようで自分自身が誇らしい気持ちになった。これからは俺の作るパンで日本の全員を幸せにしようと思ったくらいだ。

シェフになり色々なデータを管理・整理しているうちに昔のデータが出てきた。まだ今のオーナーが小僧だった時のものだろう。拙い文章だが妙に詳しく書いてあり思わずほっこりしてしまった。そこに面白い物が載っていた。それは手で生地を捏ね、手で成形をするという昔の技法だった。俺は何のけ無しにその文章を読んでみたがこれがとても面白い。今では考えられないような理論がたくさん書かれていたからだ。手で生地を捏ねるとストレスなく生地ができるのでボリュームが出る。酵母は植物性の菌なので音楽を聴かせると活性化する。手で成形すると細かいニュアンスが出て食感が楽しめる。など、どれもこれも今では考えられないような物だが何故か心に響いた。俺はそのデータをコピーし休みの日に全て熟読した。すべてを読み終えた後、俺は何故か悔しくなっていた。何故もっと突き詰められなかったんだろう。何故今まで自分のこの手でパンを作ってこなかったんだろうと。オーナーのデータには若かりし頃の決意が詰まっていた。美味しいものを作ってみんなを喜ばせたいと言う信念がこもっていた。俺の中で何かが弾けた。その日店のスタッフを集めミーティングをして熱意を伝えた。ちょっとクサすぎるとも思ったがみんな俺の言ったことに同意してくれ、同じ方向を向いてくれた。すごく、すごく嬉しかった。ここから何かが変わると思った。

オーナーにこの話をすると照れながらも嬉しそうにしていた。「俺は飲み込まれちまったからよ・・」と言う言葉が印象的だった。もう一度俺が本当のパンを復刻してやる。一つ一つに気持ちを込めた、温かみのあるパンを作る!そう決心した。店で手作りのパンを販売すると様々な反応があった。特に年配の方は懐かしがって話しかけてくれるくらいだ。一つ一つ少しずつ形が違うパン。いびつだけどそこに温もりを感じると言ってくれた。店の売り上げはそんな事もあってか順調に伸びて行き、遂には、学校給食やイベントでウチのパンを使いたいと言うところも出てきた。

ここからまた新しい道が開ける、もっと多くの人を幸せにできると思い俺はオーナーとともに外注先の責任者と打ち合わせに臨んだ。先方はウチの会社のことはあまり詳しくないみたいで、ただ単に最近話題だからと言う理由だけでオファーをしてきたようだった。そしてミーティングが始まって間もなく、ウチらのパンの魅力を伝えると黙ってしまった。しばらくの沈黙の後、申し訳なさそうに口を開く。

「ここのパンすごく話題で実際に食べてみたんですけど美味しかったです。」

何だ・・そんな当たり前のことか。。。今更何言ってるんだ、と思い俺が会話をしようとしたその時

「でも、このパン。職人さんが作ってるんですよね?形が均一ではないですよね?グラムが均一で無いですよね?異物が混入する可能性ありますよね?焼き色が乱れる時ありますよね? 少しでも他と違うとお客様からクレームが入るんです。あっちの方が大きかったとか、こないだ食べた方が美味しかったとか。なので職人さんがパンを作っているなら、この話無かったことにしてください!!」

そんな未来。信じるか信じないかあなた次第です!笑

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