前々回書いた記事で低温長時間発酵法をみんな取り入れたらどうですか?と書きました。今回はその低温長時間発酵の中でも成形冷蔵する話にフォーカスしたいと思います。
色々なブログや本、YouTubeを見てもやはりこのやり方をとっている方は見かけませんでした。中には全否定されている方もいらっしゃいました。(現役プロのシェフクラスの人)当然製法の一つなのでメリットデメリットがあります。ただ、知識を知っているのと知らないのでは大きく差が出ますので、昔ながらの固定観念は取り去った方が自身の成長につながると思います。少し難しい内容になってしまうかもしれませんが、恐らくほとんど他では書かれていないことだと思いますので、最後まで見ていただけたらと思います。
一般的なオーバーナイト法との比較
今回は成形冷蔵に話を合わせると書きましたが、成形冷蔵以外ですと生地が捏ね上がった後フロアタイムを取ってパンチしてから冷蔵。この手法が多く見られます。こちらも冷蔵温度帯(4℃〜7℃くらい)で12時間熟成させ、次の日復温(フクオン、生地を常温にだし生地温が上がるのを待つ)させて分割スタートという流れになります。
成形冷蔵はミキシング→フロアタイム→分割→ベンチタイム→成形→冷蔵という流れになります。
何が一番重要なのかというとホイロ(最終発酵)をとらないんです。冷蔵で熟成させるのと同時に発酵を促すところがこの製法の一番のポイントです。
つまり通常であれば生地を作って、形どって膨らませて焼く。この膨らませてという工程をすっ飛ばしているんです。だから今までのやり方と全く違う事をしなければいけなくなるのです。
最終発酵がないということはそこに至るまでに生地の状態をトップに持っていかなければなりません。通常のパン生地ですとホイロを出す時がトップの状態なんです。このトップという表現は自己流なので通じにくいかもしれませんね・・・
最終発酵・ホイロの目的は酵母を活性化できる温度に持っていき生地内にガスを発生させそれを保持するところにあります。ところが最終発酵がないとなると冷蔵中に少しずつ進行する発酵に耐えられるだけの骨格、つまりグルテンが形成されていないと保持できなくなるのです。だからミキシング には細心の注意が必要であり、ミキシング時点で力をつけておく必要があるのです。
これはフランスパンの作り方も例外ではありません。フランスパンの配合はシンプルで吸水が入る分、ミキシングをかけると熱がついて風味がなくなるとか、内層(クラム)が詰まってしまうと言われていますが、それはストレート法、ないし最終発酵を取る工程のものについての話であってこの製法には当てはまりません。ミキシング は十分にかけしっかりとグルテンの絡まりを複雑にする必要があります。もしこの製法をする時に通常通り弱いミキシング で行うと発酵してる時にガスが抜けていき、製品はペタンとしたものになります。断面を見るとかまぼこのようにお尻がぺったんこの状態ですね。生地が伸びようとしてもそれに耐えられる筋力がないために当然クープ(生地に入れる切り込みのこと)もきれいに開きません。
この違いを知らないとなんでそんなにミキシングかけるの?とか、それはフランスパンの作り方じゃないといった意見も出てきます。しっかりロジックを知ってから作ると腑に落ちるのでこの考え方は忘れずに覚えておいてください。
熟成の考え方
発酵と熟成というのは似ているようで異なります。わかりやすく言えば微生物が働くのが発酵、酵素が働くのが熟成ですね。各種の菌が働いて味や風味に作用するのは発酵、タンパク質、デンプンを分解して味や風味に作用するのが熟成です。最近はお肉もエイジングという言葉が出てきてわざと菌を付着させ発酵作用を狙い『発酵熟成』と言われるものもありますね。
パンにおいてこの発酵と熟成というのはめちゃくちゃ大事で製品の良し悪しを左右するものになります。発酵は言わずもがな酵母ですし、酵素は小麦粉に含まれていて時間をかけて作用していきます。ですので短時間で作るパンよりも長時間かけて作る方が旨味や風味が出てくるのです。
但し!!注意しなければいけないことがあります。
それは酵素の働き方!!先ほども書いたように酵素はデンプン、タンパク質を分解して旨味に変えていきます。ん??タンパク質?そうなんです。パン生地の骨格と言えるグルテンはタンパク質で出来ているんです。なので長い時間放置しておくとグルテンが軟化していきガスを保持する力が弱くなるんです。ちなみにそうなるとせっかく出来た風味、アロマも抜けていきます。保持できないですからね・・・
そのためにもグルテンを強くしておく必要があります。色々と理にかなってきましたね。
そしてもう一つこのオーバーナイト法の考え方で重要なのが『塩』の存在です。
このオーバーナイト法を用いるときは通常の配合よりも塩の添加量を多くします。味の為ではありません。発酵、酵素の働きを抑制させる為です。数字的にいうと0.3〜0.5%増やします。この緻密な配合比率を見て読み解くと快感ですよ笑 この人はこういう思いでこの配合を組み上げたんだなとか、なるほどこのためにこの%か!!とか・・・かなりマニアックでしたね、すいません。。でも音楽だってそうでしょ?いきなり訳のわからに音入れてインパク・・・(←もういい・・・)
兎にも角にもオーバーナイト法において重要なのは如何に発酵と熟成をコントロールするか、です!!
相性の良い発酵種
熟成をさせる上で非常に相性がいいのが発酵種の存在です。発酵種とは代表的なルヴァンに始まり、自家製酵母(天然酵母と呼ばれているやつ)、老麺(前の日に余った生地)などの事です。
酵母種には主に三つの働きがあります。
・酵母的な発酵を主とするもの
・風味や味をよくするもの
・改良材の働きをするもの
全てに作用しますが、どの酵母種を使うかによって特徴の出方が変わります。ここがすごく面白いところなので、みなさんお家で自家製酵母種作りをするんでしょうね!
オーバーナイト法に適しているのは二番目の風味に特化した酵母種です。熟成の旨味がさらに広がるイメージを持ってもらえれば良いと思います。この酵母種はルヴァンが適しています。ただ家庭で永続的にルヴァンを持ち続けるのは難しいと思いますので、そのときは前日余った同じ生地(冷蔵庫で保管しておいてね)を使うと良いです。ちょっと改良材的な要素も強くなりますが家庭で作るなら問題ないです。
どうせこの製法をやるのであればイースト菌を使った単調な味わいではなく複合的な味わいを目指しましょう。
生地の見極めとスペース問題
ここまで読んでいただくとオーバーナイト法の良さが伝わると思うんですが、問題は生地の見極めがめちゃくちゃ難しい、そしてスペースの問題が出てきます。生地を丸めてボールに入れて置くだけではないですからね・・・バゲットなんてやったら冷蔵庫のスペースをかなり使います。というか入らない可能性もありますね。また生地の見極めに関しては上記に書いたように今までの経験が全く通用しないところになりますので、ひたすたやって感覚を掴むしかないです。(知っている人がそばにいれば別)
まとめ
色々と書きましたがいくつかのデメリットをクリアさえしてしまえば後はいつでも焼ける状態になります。これはかなり凄いことで、焼き立て食べたいなーと思ったら20分で焼き立てが出てくるんです。しかもおいしいやつが・・・家でチャレンジする価値も十分あります。ホームパーティーをした時みんなが集まってから焼き立てを出すことだってできます。みんながお腹いっぱいだったら焼かずに老麺にしたって良いんです。
私はこの製法に出会って本当に感謝してますし、感動しました。作り方は難しいですがぜひトライしてもらいたい製法です。
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